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わがまち
わが町
織田 作之助
「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页
」
と、次郎はこれを半分自分への口実にしていた。実は次郎は近頃潜水夫の仕事が、怖いというより、むしろ嫌になって来ていたのだった。人間はからだを責めて働かな嘘やという他吉の訓えを忘れたわけではないが、いまだに隠居しようとせず、よちよち俥をひいて走っている他吉を見ると、それもなにか意固地な病癖みたいに思えて、自分はやはりなにか外の呑気な商売をと考えていたのだった。
他吉はこの話をききつけると、血相かえて飛んで来て、
「潜水夫が嫌になったとは、何ちゅう情ない奴ちゃ。鶴富組の御主人も言うたはったが、今に日本がアメリカやイギリスと戦ってみイ。敵の沈没船を引揚げるのに、お前らのからだはなんぼあっても足らへんねやぞ。三十尋たらの海が怖うてどないする? ベンゲットでわいが毎日どんな危い目に会うてたか、いっぺんよう考えてみイ。お前のお父つぁん生きてたら、蝙蝠傘で頭はり飛ばされるとこやぜ。」
と、呶鳴りつけ、「わいらの事は心配するな。そういう心配したらどんならんと思えばこそ、わいはお前らの厄介にならんと、……」
今なお俥をひいているこのわいを見ろと、他吉はくどくど言ったが、次郎は父親似の頑固者だった。