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わがまち

わが町

織田 作之助

「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页

青空文庫

木蔭で弁当をひらいていると、雨がぱらぱらと来て、急に土砂降りになった。合羽を仏壇にかぶせ、自身は濡れ鼠になりながらペタルを踏み、やっと目的地に着いて、仏壇を届けて帰る道もなお降っていたが、それでもへこたれようとしなかったのは、子供の頃からさまざまな苦労に堪えて来た故であろうか。大阪に帰ると、日が暮れた。男なら一服吸うてというところを、その足で直ぐ病院へ戻り、夜、次郎の寝台の傍で産衣を縫うた。七ヶ月さきに生れるとの産婆の言であった。

次郎は見て眼が熱くなり、

「ああ、魔がさしてた。潜水夫やめよう思たんは、あれは気の迷いや。怪我した足が泣いとる。元のからだになったら、はよ潜れ言うて、泣いとる。」

と、言い、そしてしみじみと、「苦労させるなア。」

と手を合わさんばかりにした。君枝は、

「阿呆らしい。水臭いこと言いなはんな。」

と、いつもの口調でいい、そしてこくりこくり居眠りをした。

他吉はそんな風に君枝が働きだしたのを見て、貧乏人の子はやっぱり違うと喜び、

「せエだい働きや。」

と、言い言いし、さもありなんという顔でなにやらうなずいていた。ところが、それから半月ばかり経ったある日、ふと君枝がおしめを縫うているのを見て、にわかにほろりとした。