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わがせいしんのしゅうい

わが精神の周囲

坂口 安吾

「群像 第四巻第一〇号」1949(昭和24)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,670 字 · 32 页

青空文庫

あんたがどんな偉い人かは知らんが、この婆アに足で頭を踏みつけられた、腹が立つ、帰れ、ハア、帰りましょう、ハイ、サヨナラ、それだけのことじゃ」

この婆さんの温灸というのは、由来書の通りに云えば、菅平高原から採取している十何種かの高山植物と、動物のホルモン等々をねり合せた黒色のウニのようなものをガーゼの上へ一センチぐらいの厚さにつみ、その上へモグサを山ともりあげて燃すのである。黒色のウニのようなものが多分に液汁を含んでいるから、それが燃えない限り、さのみ熱くはなく、熱くなると、やめるという仕掛けで、終るまでに一時間ぐらいはかゝるかも知れぬ。ここをやると眠くなる、と、頭のテッペンや頸筋へも温灸をやった。

「これをやると赤血球白血球一万ふえる。何よりホルモンが貴重な薬を通じて移るから、これをやると、女が十人あってもまだ足らないというほど精力が溢れる。あんたの頭は毛が薄いが、ハゲは三日で、黒い毛が生えるようになる」

大きなことばかり云っている。どうせ医者の薬も治しゃせぬ、という病気に憑かれてのことであるから、これも余興、朝晩四日やった。一向に効き目がない。睡む気もさゝないのである。