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わがせいしんのしゅうい

わが精神の周囲

坂口 安吾

「群像 第四巻第一〇号」1949(昭和24)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,670 字 · 32 页

青空文庫

火の玉も師匠の婆さんも、にわかに面色が改まって、返事をしなかった。

その翌日、もう来なくともいゝと電話をかけさせたのに、やってきて、今日は今までとは別な特別のネリ薬を持ってきたから、と、女房にしつこく云う。来るなと云えば、ハイ、サヨナラ、どころの話ではない。むりに温灸をもしはじめて用意にかゝった様子であるから、私が隣室から、

「もう来るなと電話で云った筈だよ。なんべん来ても、ハイ、サヨナラ」

と、ひきとらせた。それでも諦めず、一時間ほどすぎて、日蓮の婆さんを差し向けてよこした。この婆さんの方に私が好意を持っていることを嗅ぎだしたからであろう。

これほどケンもホロロに追い返さなくとも、いゝようなものだが、なんともカケアイ漫才がうるさくて、見えすいた商売気やハッタリが鼻についてならないのである。ある日は、私を海岸の散歩に誘い、汀をピシャピシャ歩くほど気持のよいものはない、明日夕方の五時に迎えに来るから、と、私が何度イヤだと云っても、二人のカケアイ漫才で、そのシツコサたらない。思うに、海岸には写真屋がたくさん出ているから、そんなものでも撮して宣伝の具にしようとでもいう魂胆だったのかも知れない。