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わがちをおうひとびと

わが血を追ふ人々

坂口 安吾

「近代文学 第一巻第一号」1946(昭和21)年1月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,546 字 · 21 页

青空文庫

何者に向けるか分らない不思議な憎しみが起るのだつた。あらゆる者を憎んでゐた。そして、自らの魂すらも憎しみによつて刺殺した。劇烈な疲れが涯の知れない遠い厚さで四辺をとつぷり包んでゐた。

彼はレシイナを思ひだし、そして、その名を呼んでゐた。ふと気がついて飛び上るほど混乱したが、彼の魂は血に飢えた。彼は渡辺小左衛門を本能的に憎悪した。果してそれは恋であつたか? 彼はたゞレシイナの肉体を想像し、それがある人の自由のまゝであることを考へると、気が遠くなり、彼の感官は分離して、四方八方の予期せざる箇所に苦痛な不安がはゞたくのだつた。彼はひどくボンヤリし、呻き声をだすのであつた。みんな死ぬ、みんな死ぬ、彼の重い魂が呟いてゐた。

その呟きの声が渡辺小左衛門の耳にきこえてくるのであつた。あの男はあらゆる平和な人々をみんな殺してしまふのだ。間違ひもなくそれを彼が直覚してゐた。野も山も、人も木も、静かな小さな島よ。どうなるのだらう。神とは何者であるか。そして、四郎は神の子であるか。あゝレシイナ、お前だけは私のそばから離れてくれるな。彼は気違ひになりさうだつた。