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わがちをおうひとびと

わが血を追ふ人々

坂口 安吾

「近代文学 第一巻第一号」1946(昭和21)年1月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,546 字 · 21 页

青空文庫

ちようどその年には東西の空が一時に焼けるといふ現象が起つて村人達を驚かし、又、源左衛門の庭の枯木の藤の木に花が咲き、それも以前は白の咲いた木であるのに紫の花が咲いた。又、外のところでは秋の季節に桜の花が咲いたし、温泉岳の麓であるから天地鳴動に不足はない。万事その年に行はれた不思議な事どもにかこつけたもので、善童とあるのは言ふまでもなく益田甚兵衛の子、ヒエロニモ四郎のことであつた。

男には五名の配下があつた。医者の森宗意軒、松右衛門、善右衛門、源右衛門、源左衛門で、いづれも六十前後の老人、天草の諸方に住む切支丹の世話役であつた。五名の老人はマヽコスの予言書を持ち廻つて四郎の奇蹟を宣伝しはじめたのである。

下津浦の浜では漁師が網をひくと貝殻が一つはいつてきた。貝殻の中には紙片があり、表に十字架が描かれ、裏には天の子四郎と書かれてゐた。

小左衛門が一番はつきりと忘れることが出来ないのは、この男が彼の地所を借りるために始めて訪ねてきた時のことで、そのとき男は呆れるぐらゐ陽気であつた。開放的で豪快で何一つ心に隠しておくことの出来ないお喋りといふ風であり、彼の経てきた色々の不思議なこと愉快なことを語つてきかせるのであるが、たつた一度ジロリとレシイナを見た男の眼を小左衛門は忘れることが出来ないのだ。