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わがちをおうひとびと

わが血を追ふ人々

坂口 安吾

「近代文学 第一巻第一号」1946(昭和21)年1月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,546 字 · 21 页

青空文庫

教会に残る彼の名はフライ・トマス・デ・サン・アウグスチノ神父といふ。日本潜入を願ひでゝ、一六三〇年二月二日乗船、マリベレス島で難船したが助かり、日本逆潜入に成功した。

当時アウグスチノ会の代理管区長グチエレスは大村に入牢中であつたから、次兵衛は長崎奉行竹中采女の別当の中間に住込んで牢舎に通ひ、グチエレスの指図を受けて伝道に奔走したが、彼の名が知れ渡りお尋者になりながら、当の長崎奉行の別当の中間に身をやつしてゐるといふことは約二年間気付かれなかつた。露顕して大村の山中に逃げ込み、このとき次兵衛一人を捕へるために大村藩は十六歳以上六十歳まで領内の男子総動員、唐津藩や長崎奉行、佐賀藩などから応援をもとめて総勢は数万に達し、全員を以て山全体をとりまいて、一人一尺の間隔で山林から海岸まで一足づゝ追ひつめて行つた。夜になると各自立止つた地点を動かず篝をたいて不寝番を立て、三十五日を費して、遂に海まで突きぬけた。海上には数千の小舟を敷きつめて待ちぶせてゐたから漏れる隙間はなかつた筈だが、次兵衛の姿はなかつた。彼はすでに江戸へ逐電、信徒の旗本の手引で江戸城の大奥へまで乗込んで小姓の間を伝道して歩いてゐたが、江戸の生活が約二年、露顕の気配が近づくと風の如くに飄然長崎へ舞ひ戻つてきた。