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アド・バルーン
アド・バルーン
織田 作之助
「新文学」1946(昭和21)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页
、びいどろのおはじき……いい母親だと思った。おまけに浜子は私がせがまなくても、あれも買え、これもほしいのンか、ああ、そっちゃのンもええなア、おっさん、これも包んだげてんかと、まるで自分から眼の色を変えて、片ッ端から新次の分と二つずつ買うてくれ、私はうろうろしてしまった。あまりのうれしさに、小便が出そうになってきたので、虫売の屋台の前では、股をすり合わせて帰りが急がれたが、浜子は虫籠を物色してなかなか動かないのです。
浜子は世帯持ちは下手ではなかったが、買物好きの昔の癖は抜けきれず、おまけに継子の私が戻ってみれば、明日からの近所の思惑も慮っておかねばならないし、頼みもせぬのに世話を焼きたがるおきみ婆さんの口も怖いと、生みの母親もかなわぬ気のよさを見せるつもりも少しはあったのだろう――と、そんな事情はむろん子供の私には判らず、帰りの二つ井戸で「かにどん」の氷金時を食べさせてもらって、高津の坂を登って行く途々、ついぞこれまで味えなかった女親というものの味の甘さにうっとりして、何度も何度も美しい浜子の横顔を見上げていました。
ところが、そんな優しい母親が、近所の大人たちに言わせると継母なのです。