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アド・バルーン
アド・バルーン
織田 作之助
「新文学」1946(昭和21)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页
それで、新次が中耳炎になって一日じゅう泣いていた時など、浜子の眼から逃げ廻るようにしていた私は、氷を買いにやらされたのをいいことに、いつまでも境内の舞台に佇んでいた。すると提げていた氷が小さくなって縄から抜けて落ちた拍子に割れてしまった。驚いて拾い上げたが、もう縄に掛らなかったので、前掛けに包んで帰ろうとすると、石段につまずいて倒れた。手と膝頭を擦り剥いただけでしたが、私は手ぶらで帰っても浜子に折檻されない口実ができたと思ったのでしょう、通りかかった人が抱き起しても、死んだようになっていました。
ところが、尋常三年生の冬、学校がひけて帰ってくると、新次の泣声が聴えたので、咄嗟に浜子の小言を覚悟して、おそるおそる上ると、いい按配に浜子の姿は見えず、父が長火鉢の前に鉛のように坐って、泣いている新次をぼんやりながめながら、煙草を吹かしていました。やがて日が暮れると、父は寄席へ出かけたが、しばらくすると近所の弁当屋から二人前の弁当を運んできたので、私は新次と二人でそれを食べながら新次にきけば、もう浜子は帰ってこないのだという。あほぬかせと私は本当にしなかったが、翌る日おきみ婆さんがいそいそとやってきて言うのには、喜びイ、喜びイ、とうとう追いだされよったぜ。