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アド・バルーン

アド・バルーン

織田 作之助

「新文学」1946(昭和21)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页

青空文庫

秋山というのは、中之島公園で私を拾ってくれたあの拾い屋です。私はその人を命の恩人と思い、今は行方は判らぬが、もしめぐり会うことがあれば、この貯金通帳をそっくり上げようと名義も秋山にして、毎月十日に一円ずつ入れることにしたのです。十日にしたのはあの中之島公園の夜が八月十日だったのと、私の名が十吉だったからで、子供らしい思いつきと言ってしまえばそれまでですが、貯金というものは結局そんな思いつきがなければ、私のような者にはできなかったかもしれない。

私のこの話がもしかりに美談であるとすれば、これからが美談らしくなるわけですが、美談というものはおよそおもしろくないのが相場のようですから、これから先はますますご辛抱願わねばなりますまい。

さて、一円ずつ貯金してきた通帳の額がちょうど四十円になった時、私は無性に秋山さんに会いたくなった。もっともそれまでも、紙芝居を持って大阪の町々をまわりながら、それとなく行方を探していたことはいましたが、見つからない。そこである日のこと、宣伝隊長の谷口さんにそのことを打ち明けると、谷口さんもひどく乗気になってくれて、その翌日弁当ごしらえをして、二人掛りで一日じゅう大阪じゅうを探し歩きましたが、何しろ秋山という名前と、もと拾い屋をしていたという知識だけが頼りですから、まるで雲を掴むよう