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「インガ」

「インガ」

宮本 百合子

ソヴェト文学に現れた婦人の生活

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,443 字 · 29 页

青空文庫

「ミーテンカ……夕御飯の仕度しようか?」

「――いらない。」

「お茶?……じゃあ。」

「何も欲しくない。……はっきり云ったじゃないか!……どこもかしこもガラクタだらけだ。きたない……掃くひまもなかったのか? フ!」

ドミトリーはこの頃見えはじめた自分の家庭の内の文化の低さに我慢出来ないように溜息した。彼は、ハンケチを出して額をなでまわした。ハンケチには香水がついている。グラフィーラは後毛をたらしたまま、歪んだ笑顔で、

「香水をつけ出したんだね。」

と云った。

「とてもいい香水だ……何を拭いてるのさ?」

食いつくようにドミトリーを見つめていたグラフィーラの眼が、忽ち涙と怒りでギラギラ光り出した。彼女は、いきなりぶつかった。

「ミチカ! 馬鹿! お前すっかり自分の身をほろぼすんだよ……私たちみんなを滅ぼすんだ!」

ドミトリーは、びっくりして女房を見上げ見下した。

「どうしたんだ? 狂犬か? 今日は……」

グラフィーラはたまらなくなって、ドミトリーの足許へ体を投げ出した。

「ミチューシャ! お前さんは私の大切な蝋燭だよ! ね私の悲しいときの悦びだよ、お前さんは!」

「やめろよ、おい! 休ましてくれ。