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オカアサン
オカアサン
佐藤 春夫
「女性」1926(大正15)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,831 字 · 20 页
次の日の朝、妻の話によると、ロオラはわたしが朝寝をしているうちに、鶏の「ク、ク、クク、ククク」というような声と、それから人が鶏を呼ぶような「ト、ト、ト、ト、ト、ト、ト」という叫びとを真似たということでした。
「それから、まだ何かわからないことを申しました」
と、おしげ(女中の名)が言います。
「わからぬ言葉って、何か日本の言葉ではないのか」
「いいえ。日本の言葉でございますの。『わたし……だわよ』というのですけれど、その間が分りませんの」
「それに、オカアサン、オカアサンて呼んだじゃないの」
「え、そんなに申しました。小さな女の子のような声でしたね」
「はっきり言うかい」
「そうね。あんまりよくわからないわ」
妻とおしげとは朝の食事をしているわたしに、交々そんな説明をするのでした。
食事を終ってわたしは林檎のきれを持って二階へ上って、食べものを示しながら骨を折ってやっと、
「ロオラや」
を言わせて、その日は一日わたしは外出していました。夕方帰って来ると長谷川(書生の名)が
「お帰りなさいまし。――鸚鵡は、オタケサン、オタケサンとばかり言っていました」
とわたしの顔を見るなり報告していました。