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オフェリヤごろし

オフェリヤ殺し

小栗 虫太郎

「改造」改造社、1935(昭和10)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,366 字 · 58 页

青空文庫

と云うのは、あの当時は、奈落にニスの臭いが罩っていたので、酸味の表出で、淡路君が余儀ない偽りを吐いたと云う事が判ったのだよ」

「それでは、一体、九十郎は何時誰に殺されたのだね」

と今度は、熊城が疑題を投げた。

「云うまでもなく孔雀にさ。そして、その時期は、二た月ほどまえ家族と別れた――その直後だろうと思うのだがね」

法水は一向に素っ気ない声で云った。

「それには、九十郎の驚くべき特徴を、知る事が出来たからなんだ。あの男は、俳優とは云え半聾だったのだ。然し、内耳の基礎膜には、微かに能力が止まっているので、それが九十郎に頗る科学的な発声法を編み出させたのだよ。それは、耳を塞いで物を云うと判る事だが、ハ行やサ行などの無声音以外は、欧氏管を伝わって内耳に唸りを起す。然しその無声音も、胸腔に響かせて胸声にして出すと、それが幾つもの段階に分かれて、響いて来るのだ。つまりそれに依って、九十郎は自分が出した声を判別する訳だが、勿論相手の言葉は、読唇法や胸震読法などで、読み取る事が出来るだろう。然し、この場合もし胸腔を圧迫したとしたら、自分が口にした音が、耳底には異なって響くに相違ないのだ。