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カインのまつえい
カインの末裔 クララの出家
有島 武郎
有島武郎『カインの末裔 クララの出家』。同一底本的分册已合并为一书。收入:カインの末裔、クララの出家。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,864 字 · 93 页
しかし考えて見ると色々な困難が彼れの前には横わっていた。食料は一冬事かかぬだけはあっても、金は哀れなほどより貯えがなかった。馬は競馬以来廃物になっていた。冬の間稼ぎに出れば、その留守に気の弱い妻が小屋から追立てを喰うのは知れ切っていた。といって小屋に居残れば居食いをしている外はないのだ。来年の種子さえ工面のしようのないのは今から知れ切っていた。
焚火にあたって、きかなくなった馬の前脚をじっと見つめながらも考えこんだまま暮すような日が幾日も続いた。
佐藤をはじめ彼れの軽蔑し切っている場内の小作者どもは、おめおめと小作料を搾取られ、商人に重い前借をしているにもかかわらず、とにかくさした屈托もしないで冬を迎えていた。相当の雪囲いの出来ないような小屋は一つもなかった。貧しいなりに集って酒も飲み合えば、助け合いもした。仁右衛門には人間がよってたかって彼れ一人を敵にまわしているように見えた。
冬は遠慮なく進んで行った。見渡す大空が先ず雪に埋められたように何所から何所まで真白になった。そこから雪は滾々としてとめ度なく降って来た。人間の哀れな敗残の跡を物語る畑も、勝ちほこった自然の領土である森林も等しなみに雪の下に埋れて行った。