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カール・マルクスとそのふじん

カール・マルクスとその夫人

宮本 百合子

「紺青」1947(昭和22)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,263 字 · 25 页

青空文庫

この枢密顧問官は、役人くさくない聰明な人がらで、ホーマーやシェクスピアを愛読していた。当時の狭い社会で枢密顧問官といえば、貴族的な上流人と考えられていた。小さなワイマールの市で枢密顧問官であったゲーテの祖父が、どんなにか業々しくその地位を考えていたかを私どもは知っている。フォン・ヴェストファーレンが社会的偏見で見られているユダヤ人のマルクス一家と、そのように親しくつきあい、娘たちの友情を認めていたことだけでも、なみなみの人ではなかったと思われる。カールの快活で独特な精気にみちた人がらは、イエニーの父ヴェストファーレンに深く愛されたとともに、四つ年上のイエニーの心に年と共に幼な友達とはちがった感情を芽ぐませた。カールが十八歳、そしてイエニーが二十二歳の年、二人は婚約した。

カールはベルリン大学へ入学しなければならなかった。イエニーの住む故郷の町トリエルを離れて、大海のようなベルリンへ行くことは、カールにとってたいして気が進まなかったらしい。カールはイエニーへの手紙に書いている。

「ほかの時なら私を魅惑し、自然観察に亢奮させ、人生の喜びにもえさせたに違いないベルリンへの旅行さえ、私の興味をなくさせました。