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キャラコさん
キャラコさん
久生 十蘭
03 蘆と木笛
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,236 字 · 43 页
なんでもなくしてくださったあなたの親切が、私にどんなたいへんな影響をあたえたか、いつか必ずわかるときが来るって。……つまり、これが、その結果です」
キャラコさんは、発動機艇の桟橋まで佐伯氏を送って行った。
発動機艇は渚を離れた。
佐伯氏は船尾に坐って、ゆるゆると木笛を吹いている。
岸では、キャラコさんが長い蘆を振ってわかれの挨拶をする。
発動機艇の影が見えなくなっても、木笛の音はまだきこえていた。
次の日のひるごろ、キャラコさんと茜さんは、長尾峠の頂上に立っていた。眼のしたに、蘆の湖が、古鏡のように、にぶく光っている。
キャラコさんは、ここから御殿場のほうへくだり、茜さんは、仙石原のほうへおりて、それから東京へ職業をさがしに行くのである。
いよいよ別れる時がくると、茜さんが、いった。
「兄は、ほんとうにあなたを愛していたのではないでしょうか。あなたが立上氏を呼んだと聞くとその夜、兄は夜半にそっと起きあがって、稀塩酸でじぶんの眼をつぶそうとしているのです。必死なようすでしたわ。……あなたにだけは嘘つきだと思われたくなかったのでしょう。……これだけ申しあげたら、この間、あたしがなぜあんなひどいことをいったか、わかってくださるでしょう。