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コーヒーてつがくじょせつ
コーヒー哲学序説
寺田 寅彦
「経済往来」1933(昭和8)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,126 字 · 11 页
ベルリンの下宿はノーレンドルフの辻に近いガイスベルク街にあって、年老いた主婦は陸軍将官の未亡人であった。ひどくいばったばあさんであったがコーヒーはよいコーヒーをのませてくれた。ここの二階で毎朝寝巻のままで窓前にそびゆるガスアンシュタルトの円塔をながめながら婢のヘルミーナの持って来る熱いコーヒーを飲み香ばしいシュニッペルをかじった。一般にベルリンのコーヒーとパンは周知のごとくうまいものである。九時十時あるいは十一時から始まる大学の講義を聞きにウンテル・デン・リンデン近くまで電車で出かける。昼前の講義が終わって近所で食事をするのであるが、朝食が少量で昼飯がおそく、またドイツ人のように昼前の「おやつ」をしないわれらにはかなり空腹であるところへ相当多量な昼食をしたあとは必然の結果として重い眠けが襲来する。四時から再び始まる講義までの二三時間を下宿に帰ろうとすれば電車で空費する時間が大部分になるので、ほど近いいろいろの美術館をたんねんに見物したり、旧ベルリンの古めかしい街区のことさらに陋巷を求めて彷徨したり、ティアガルテンの木立ちを縫うてみたり、またフリードリヒ街や、ライプチヒ街のショウウィンドウをのぞき込んでは「ベルリンのギンブラ」