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ザザむしのつくだに
ザザ虫の佃煮
佐藤 垢石
「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,267 字 · 5 页
私は初耳なのである。
それから間もないことであった。博士に信州高遠の桜見物に誘われた。四月の二十日ごろであった。友人三、四人と共に、高遠公園の桜を眼の前にして、公会堂の楼上に卓をかこんだ。高遠の有志から、酒と重箱の贈りものがあった。酒は仙醸と呼んで、まことに芳醇である。重のなかは肴であるそうである。やがて、博士は重箱の蓋をとった。みると、先だっての話の、ザザ虫の佃煮だ。ザザ虫ばかりではない、川百足もいる。生きているときは青黒い色をして、長さ五分くらい。胴が丸く嘴の長い瀬虫(トビゲラ)と称するグロの虫まで、佃煮になっているではないか。
博士は、まずザザ虫の佃煮を箸でつまんでから、徐々に説きだした。諸国の川には、至るところにこのザザ虫はいるであろうが、まず天瀧川に産するザザ虫の味を第一等とする。この重箱に入っているのが、すなわち天瀧川のザザ虫である。佃煮にこしらえば人間の餌となるものを、魚の餌として捨ておくのはもったいない。
次に、この川百足に至っては珍中の珍だ。肉に濃淡の風味を持ち、歯切れがなんともいわれないのである。瀬虫の旨味、わが天瀧河畔の人々でなければ、知る者はあるまいと思うが諸君、騙されたと思って酒の肴に一箸やって見給え。