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ジャーナリズムざっかん
ジャーナリズム雑感
寺田 寅彦
「中央公論」1934(昭和9)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,682 字 · 21 页
しかしデパートの屋上から落とした一枚の鼻紙は決してこの方則には従わないのである。重力加速度に関する物理の方則は空気の抵抗や風の横圧や、偶然の荷電や、そんなものの影響はぬきにして、重力だけが作用する場合の規準的の場合を捕えて言明しているのである。そうしてまた、加速度の数値を五けた六けたまでも詳しく云為する場合には、実測加速度から規準加速度を導出するためにいろいろさまざまの「補正」を要するのである。
これと同じように、新聞記事のうそも一種の「補正」と見れば見られないこともないような場合もたしかにありそうである。ただ不幸にしてこの場合には物理学の場合のように確実な物理の方則に準拠した「補正」の代わりに、個々の記者のいわゆる常識による類型化の主観的方便によるよりほかに一つもたよりになるような根拠がないからいささか心細いと言わなければならない次第である。
セザンヌがりんごを描くのに決して一つ一つのりんごの偶然の表象を描こうとはしなかった、あらゆるりんごを包蔵する永遠不滅のりんごの顔をカンバスにとどめようとして努力したという話がある。科学が自然界の「事実」の顔を描写するのはまさにかくのごとき意図によるものであろう。