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ジロリのおんな

ジロリの女

坂口 安吾

前半「文藝春秋 第二六巻第四号」1948(昭和23)年4月1日、後半「別冊文藝春秋 第六輯」1948(昭和23)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,597 字 · 102 页

青空文庫

ぬ、けれども、私の願いなのです。夢なのです。私は現実に夢をもとめてはおりませぬけれども、その夢に似せて行きたいとは思います。私は肉体や、その遊びを軽蔑いたしてはおりませぬ。肉体を弄ぶことも、捨てることも怖れてはおりませぬ。たゞその代償をもとめています。それの代りに、ほかに高まる何かゞ欲しいと思います。女の心は、殿方の心によって高まる以外に仕方がないとも思います。私の心を高めて下さる殿方ならば、私はどなたに身をおまかせ致しても悔いませぬ」

「そうですか。すると、お言葉の意味は、私はつまり、あなたの心を高める男ではないというわけですね」

「いゝえ、今までの浅いおつきあいでは、わかりかねるというだけの意味です」

ヤス子は一きわ顔をひきしめ、私をきびしく見つめて、言った。それは私を励ますような様子でもあった。母性愛の一変形というような、いわば不良児へのいたわりと激励というところであろう。そこで私がウマを合わせて、

「じゃア、見込みがないわけでもないのだな。そう考えて、よろしいのですね」

ヤス子は答えない。なんとなく、侘びしそうな浮かない様子であった。冗談が嫌いなのだろう。