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ジロリのおんな

ジロリの女

坂口 安吾

前半「文藝春秋 第二六巻第四号」1948(昭和23)年4月1日、後半「別冊文藝春秋 第六輯」1948(昭和23)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,597 字 · 102 页

青空文庫

そして私は信じるよりも、えゝ、どうせバカのついでだ、という居直り強盗の心境になった。

私はそこで、すり寄って、ヤス子の肩をやわらかくだいて、静かに接吻した。ヤス子はボンヤリして、うつろな目をあいたまゝ、されるまゝになっていた。

「ヤス子さん。私の魂はあげて下僕、ドレイのマゴコロです。けれども、とにかく、邪念なく、マジリケなしに、マゴコロがすべてゞすよ。私はあなたを愛し、尊敬し、こよなく、祈るようにお慕いしています」

とネンゴロに云って、次第にはげしくだきしめた。

★

思いをとげるということは、ある意味では、むなしいことだ。けれども、私はそうは言わない。マゴコロのもえ育つ日という。私は愛する人が、いとしい。それは、私よりも、いとしくさえ思われる。否、私よりもいとしいとハッキリ言いきれるのである。

わけてもヤス子はいとしかった。上高地で見た大正池と穂高の澄んだ景色のように、人の心も、その恋も澄む筈だと云った。あのリンリンたる言葉を、美しい音楽のようにわが耳に思いだして、私の心はいとしさに澄み、そしてひろびろとあたゝまる。

私のようなバカ者の中から何らかの高貴を見出し、高まろうとする。