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スウィスにっき
スウィス日記
辻村 伊助
辻村伊助『スウィス日記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:スウィス日記、続スウィス日記(千九百二十三年稿)。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 216,275 字 · 410 页
丘には山羊を野飼いにして、ツィーゲングロッケのからからと鳴るのが、澄み切った空に高く響く。路は花草の中を分けて、やがて、葉をふるった落葉松の林にさしかかる。
「●ブリュームリスアルプ」のキャプション付きの写真
●ブリュームリスアルプ
と、なそいに向うへ下りて、また樅の木の枝を交わしたあたりから、下草は、昨日か一昨日か、まだらに消え残る薄雪をかずいていたが、湖水にはさすがに氷はない、しかし断崖の間に、氷柱は、朝の日に解けもやらず垂れ下って、氷河の上にも厚く新雪を浴びていた。湖畔の一つ家からは、ほそぼそと煙が登って、まだ宿は閉め切らぬと見える。
登り路に少し汗になった外套をぬいで、水にむかったテレースに息うと、此の前にもいた宿の女が出て来た、昼食を命じて置いて、その間森の中を歩きまわる、断崖の中腹からは、薄い霧が絶えず湧き上って、ブリュームリスアルプホルンの尖峰は、浪にただよう如く見えかくれする。
名の知れぬ小鳥の群が、森の間に餌をあさるのもうら悲しい。秋空の絶えず晴れ曇りして、どことなく、冷たい影のつきまとう山の宿に、こうしてワイセフラウに湧きかえる雲を仰ぐと、永く故国を離れて、さまようている寥しさが、なつかしくもひしひしと胸に沁みる。