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スモーリヌイにひるがえるあかはた
スモーリヌイに翻る赤旗
宮本 百合子
「大阪毎日新聞」1931(昭和6)年1月5日~21日号(15日号、19日号を除く)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,354 字 · 51 页
日本女の室がある方の建物の翼は、ウラジーミル大公時代、親戚とか召使の頭とかが住んでいたのだそうである。うねって、暗い廊下だ。どこにも窓のない壁の厚い廊下には、湿っぽい古くさい匂いがある。
台所は明るい。窓が晴れやかに開いて、その窓際に台があって、薄い色の髪の毛がすきとおるような工合に光線を受け一人の背広をきた中老人がハムを刻んでいる。わきに小鍋と玉子が二つころがっていた。
むき出しの頑丈そうな腕を大きい胸の上に組んで、白い布をかぶった女が中老学者の家事ぶりを眺めていた。彼女は日本女を見ると珍しそうに目で笑い、だが何にも余計なことをいわず、頼まれただけの湯呑と急須とをゆっくり棚からとってくれた。湯呑の一つに赤旗を背景に麦束をかこんだ鎌と鎚の模様がついていて、黒い文字で「万国のプロレタリアート、結合せよ!」
ネ※(濁点付き片仮名「ワ」、1-7-82)河のはやいひろい音のない流れでめまいしそうなのは表側――河岸通に向った室だけだった。壁画のある、天井の高い大食堂の窓からは、灰色のうろこ形スレートぶきの小屋根、その頂上の風見の鳩、もと礼拝所であったらしい小さい四角い塔などが狭くかたまって見えた。