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スモーリヌイにひるがえるあかはた

スモーリヌイに翻る赤旗

宮本 百合子

「大阪毎日新聞」1931(昭和6)年1月5日~21日号(15日号、19日号を除く)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,354 字 · 51 页

青空文庫

レーニングラード、モスクワ間八百六十五キロメートル。車輪の響きは桃色綿繻子の布団をとおして工合よく日本女をゆすぶった。坐席はひろくゆったりしている。南京虫もこれなら出そうもない。――そうだ。

革命の時代は、三等車かそれとも貨車の中へいきなりわらを敷いて乗って行く方がずっと安全だった。なまじっかビロードなどを張った軟床車よりは。当時シラミは歴史的にふとっていたのだ。シラミはチフス菌を背負って歩いていた。――

今この三等夜汽車で靴をはいたまんま寝て揺られている旅客の何人かが、一九一七年から二一年までの間にその光栄あるСССРの歴史的シラミを破れ外套の裾にくッつけてあるいていなかったと誰がいえる。さっき、その大きい二つの眼をステーションの雑踏のうちへ吸い込ませた二十五歳のナターリアはその年、中学校の女生徒だった。彼女は貨車へのっかってフィンランドの国境まで行った。貨車を引っぱっていた機関車はとてものろくはしった上、まるで思いがけないところで立往生した。すると若いもの達は貨車の中からとび出して森へ行った。森で彼等は白樺の木を伐った。機関車はそれをたき黒煙をあげてはしり出し彼女等は貨車の真中に煙突を立てているさびた鉄ストーヴで麦粉の挽きかすをドロドロな粥に煮て食った。