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ズラかったしんきち

ズラかった信吉

宮本 百合子

「改造」1931(昭和6)年7~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页

青空文庫

先は、顔ぶれが日によって変ったし、第一みんな臨時にこんな仕事やってるんだという腹があったから、仲間同志も、仕事っぷりもどっか冷淡だった。従ってモスクワの張り切った生活をも道ばたから眺めてるような工合だった。

「鋤」じゃ全く違う。

信吉が日に二百本余の締金を電気鑢でこさえることは、八百人からの労働者のいる「鋤」農具製作工場全体の仕事と抜きさしならず結びついてる。余分な人間は職場には一人もいねえ。――

ヒョイと跼んだ拍子に見ると、明るくカラリとした仕事場のむこうの入口からピオニェールが二人来る。

仕事台と仕事台との間の広々した、鉄の匂いのする通路を、赤い襟飾が初夏らしくチラチラした。

間もなく信吉のところへも来て、

「お前、もうこれへ書きこんだ?」

鉛筆で罫をひっぱった大判の紙を見せた。

信吉は片手に鉄片をブラ下げたなり、

「何だね?」

「五ヵ年計画公債を買う人はここへ名を書くんだよ」

仕事台で並んでるグルズスキーが、撫で肩の上から粘りっこい目つきでチラリとこっちを見たなり、黙って仕事をつづけてる。

信吉は、ピオニェールの出してる紙をゆっくりとりあげた。

「なんぼなんだ?」