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ズラかったしんきち

ズラかった信吉

宮本 百合子

「改造」1931(昭和6)年7~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页

青空文庫

中から、誰が鬼か当てる遊びだ。

ハンケチで顔を拭き拭き、わきから眺めてるうちに、信吉は興にのって、鬼に当った男の手の平をピッシャリやってヒョイと指を立てた。

「お前だ!」

アグーシャをさした。

「違う」

「そうじゃないよ!」

「さァ、さァ、もう一遍だ」

ピシャリ!

「そら、今度こそ当った! お前だよ」

アンナをさした。誰かがキーキー声で、

「お前、どうしてきっと女が自分を打たなきゃならんもんときめてるんだ! 変な奴!」

「――騙すなよ、おい」

伴れらしいのが、大笑いしながら、

「本当に、お前が当てないんだから仕様がないよ、サァ、目をつぶったり、つぶったり」

計らず信吉はその鬼から煙草一本せしめた。信吉の手が小さくて、そのノッポーで感の悪い労働者には、男だと思えなかったんだ。

金がかからない楽しみでだんだん活気づき、信吉たちは、いい加減くたくたになるまで公園中を歩きまわった。赤い果汁液を二本ずつも飲んだ。ベンチに長いこと両脚をつき出して休んだ。

「さ、引きあげようか」

河岸をブラブラ公園の出口に向った。

信吉はとっくに鳥打帽をズボンのポケットへつっこんでしまってる。