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ズラかったしんきち
ズラかった信吉
宮本 百合子
「改造」1931(昭和6)年7~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页
われわれ生産に従事する労働者に食糧が足りねえとき、何故国家保安部の消費組合だけはフンダンに物をもってるのか?
何故外国人だけ、特別の切符でしこたまものを食うことが許されてるのか?――俺はこれに答えて貰いてんだ!」
労働通信員グーロフは、額のとこへ太い青筋を浮き上らし、盛に左の手の爪をかみながらテーブルへ腹を押しつけ紙切に何か書きつけてる。
アクリーナが、窓枠へ腰かけ両手をつっぱったまま叫んだ。
「私は労働婦人として云うんだけれど、全くこの頃の消費組合ったらなっちゃいやしない! きのう塩漬キャベジを百グラム買うのに、何分列に立たせられたと思う? レーニンは女を台所から解放しろと云った。レーニンが死んで何年立つ? 列は長くなるばっかりで、そこに立ってるのはいつだって女なんだ!」
キラキラする黒い眼をせわしく瞬いて一気に云い終ると、アクリーナは、フンと云うように細い肩をもち上げた。そして、並んでかけてる男からタバコを貰って吸い出した。
ヤーシャが落着きはらってるのに、信吉は、びっくりした。心持頭をかしげ、ジッと注意ぶかくそれぞれの言葉をきき分けている。
「あのゥ……私も云わして貰えるかしら」