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チャンス
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「芸術」1946(昭和21)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,361 字 · 17 页
」とお篠も言った。
これでよし、あとはひとりで雀焼きという事になる。私は部屋に通され、番頭の敷いてくれた蒲団にさっさともぐり込んで、さて、これからゆっくり寒雀をと思ったとたんに玄関で、
「番頭さん!」と呼ぶお篠の声。私は、ぎょっとして耳をすました。
「あのね、下駄の鼻緒を切らしちゃったの。お願いだから、すげてね。あたしその間、お客さんの部屋で待ってるわ。」
これはいけない、と私は枕元の雀焼きを掛蒲団の下にかくした。
お篠は部屋へはいって来て、私の枕元にきちんと坐り、何だか、いろいろ話しかける。私は眠そうな声で、いい加減の返辞をしている。掛蒲団の下には雀焼きがある。とうとうお篠とは、これほどたくさんのチャンスがあったのに、恋愛のレの字も起らなかった。お篠はいつまでも私の枕元に坐っていて、そうしてこう言った。
「あたしを、いやなの。」
私はそれに対してこう答えた。
「いやじゃないけど、ねむくって。」
「そう。それじゃまたね。」
「ああ、おやすみ。」と私のほうから言った。
「おやすみなさい。」
とお篠も言って、やっと立ち上った。
そうして、それだけであった。その後、私は芸者遊びなど大いにするようになったが、なぜだか弘前で遊ぶのは気がひけて、おもに青森の芸者と遊んだ。