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チューインガム

チューインガム

寺田 寅彦

「文学」1932(昭和7)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,807 字 · 10 页

青空文庫

飲食店などの入口にも同じような短い扉があって、人はそれを乱暴に肩で押しあげて出入りする。あとで扉はパタンパタンと数回の振動をしなければすぐには静止の位置に落着かないのであった。

電車の中でも人はチューインガムを噛んでいた。そうして電車の床の上へ平気で唾を吐いていた。ヨーロッパでは見たことのない現象である。

ワシントンで生れて始めての「暑さの波」に襲われた。これについては前に書いたことがあるから略する。ワシントンからマウント・ウェザーの気象台へ見学に出かけた田舎廻りのがたがた汽車はアメリカとは思われない旧式の煤けた小さな客車であったが、その客車が二つの仕切りに区分されていて、広い方の入口には「ホワイト」、狭い方には「カラード」という表札が打ってある。自分は少し考え込んだが、どう考えてもホワイトではないからと思ってカラードの方に這入った、そうして真黒なレデーの一人と相乗りで淋しい田舎の果へと揺られて行った。

アメリカでもプロフェッサー達はみんな品のいい、そうしてヨーロッパの国々の多くのプロフェッサーよりもさっぱりした感じの人が多かったが、これらの先生達は誰もチューインガムを噛んではいなかった。