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デスデモーナのハンカチーフ

デスデモーナのハンカチーフ

宮本 百合子

「女靴の跡」高島屋出版部、1948(昭和23)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,425 字 · 5 页

青空文庫

シェクスピアの描いた女性のなかには、堂々たる婦人裁判官ポーシャばかりでなく、おそろしいマクベス夫人ばかりでなく、なかなかぬけめない、機略にとんだ女がいくたりもある。しかし、それは大体、おかみさん、または娘という環境で、デスデモーナのような貴族の姫ではないのが多い。「ロミオとジュリエット」で、ジュリエット姫は、どんなに哀憐にロミオ! ロミオ! とよび、夜の露台で有名な独白を月、星、夜鶯にかけて訴えたろう。しかし、ジュリエットが現実に出来たことは死ぬことしかなかった。デスデモーナが、まばゆいほど白くて美しい額の奥に、オセロを出しぬくだけの生一本な正直さもしんのつよい情熱ももたなかったお姫様気質を、シェクスピアは描き出そうとしたのだろうか。ハンカチーフは失われた。けれどもハンカチーフはハンカチーフよ、愛するオセロ! では、わたしたちの愛を護りぬきましょう、と、オセロのすべての勇猛を、自分たちの愛のまもりに動かす人間らしい誠実さがなかったろう。ルネッサンス時代の若い貴女デスデモーナは、お父様、わたくしはあの方と結婚しとうございます、というところまで自主的になっているけれども、その夫婦としての愛のなかでは、やっぱり歴然と、絶対の権力、生殺与奪の力をふるうものとしての良人しかみていない。