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トコヨゴヨミ
トコヨゴヨミ
田山 花袋
「早稲田文学」1914(大正3)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,449 字 · 38 页
十月の初めは、もう内地の初冬の頃の気候で、林の木の葉は黄葉してバラバラと散った。
旅舎の店の処を通ろうとして、ふと見ると、ゴルキー集と書いた短編集の散々読み古されたのが其処の机の上に置いてあった。勇吉はそれを手に取って見た。不思議にも芸術に対する憧憬が湧きかえるように起って来た。この前にも立場などで古新聞の破片などに自分の崇拝していた作家の作を発見して、東京の方をなつかしく思ったことも二、三度はあったが、しかし其時ほど強い烈しい憧憬を覚えたことはなかった。勇吉は頁をくって見ていたが、
「これは誰のだい?」
亭主は振返って見て、
「誰のって言うことはありましねえ。此間、お客様が忘れて置いて行った小説本だ。」
「ちょっと借りて行くよ。」
「え、ようがすとも……。」
其夜一夜、かれはその短編集を手から離さなかった。夕飯前に読み、寝る前に読み、蒲団に入ってからも読んだ。かれは其処にかれの日常多く見ているような旅客だの乞食だの強盗だのを見た。愚かな百姓、色気のない田舎娘、行商人、それは皆なかれの常に眼で見たり話で聞いたりするような人達であった。作物の背景になっている天然もよく似ていた。