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トコヨゴヨミ

トコヨゴヨミ

田山 花袋

「早稲田文学」1914(大正3)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,449 字 · 38 页

青空文庫

何処の村も皆なひっそりとしていた。

勇吉は非常に大きな打撃を受けた。百姓の事業の方も無論そうだが、それよりも一層困ったのは、薬のぱったり売れなくなったということであった。病人は却っていつもより多いのだけれど、何処の家でも薬などは買わなかった。大抵は富山から来る置き薬で間に合せた。

「薬屋さん、気の毒だけど……この凶作じゃ薬も買って飲めねえや。」

こう到る処で勇吉は言われた。

勇吉は思い雑嚢を肩からかけてそして遠い旅から帰って来た。

「駄目だ、駄目だ。」

こう言って、小さな自分の家に入って行った。六畳一間に、その奥に小さい二畳があるばかりであった。十月の末はもう寒かった。雪も二、三度やって来た。ブリキの暖炉の中には薪が燻って、煙が薄暗い室の中に一杯に満ちていた。妻は裏の方に行っていたが、声を聞きつけて此方に来た。背に痩せこけた女の兒を負っていた。

「何うだったね。」

「駄目だ、駄目だ。」

「ちっとは、それでも……。」

「駄目だ、駄目だ、すっかり駄目だ。」勇吉は神経性の暗い顔をして、「薬なんぞ買うものは一人もありゃしない。」

「困ったね。」

妻はこう言って、「まア、上んなさい。