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トコヨゴヨミ
トコヨゴヨミ
田山 花袋
「早稲田文学」1914(大正3)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,449 字 · 38 页
百姓の事業の方も捨てて了うのは惜しいとは思ったが、これから先凶作が毎年つづくかも知れないと思うと、不安がそれからそれへと起って来た。それにかれの持っている土地を物にしようとするには、まだ少からぬ金が必要であった。今でさえ借りた金に困っているのに、此上金を工面することなどはとても出来なかった。貯金はいくらか持ってはいても、それは万一の時の為に残して置かなければならないものであった。勇吉は溜息をついた。
ある日は何か思いついたことがあるように、急に勇み立って海岸の村へ出かけて行ったが、帰って来た時には、矢張しおれた動揺した顔をしていた。自分の住んでいる村の人達からはことにかれは何物をも得ることが出来ないのを見た。
「兎に角、こうしちゃいられない。こうしてぐずぐずしていれば、親子三人雪の中で餓えて死んで了うばかりだ。」
こう思うと、勇吉はいても立ってもいられないような心持がした。それに海岸の村で聞いて来た Socialist に対する官憲の方針はかれの恐怖の血を泡立たせた。自分のあとには常に刑事がついていて、自分の考えていることは何も彼も知っている。こう思うと、怖くって仕方がなかった。