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トコヨゴヨミ

トコヨゴヨミ

田山 花袋

「早稲田文学」1914(大正3)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,449 字 · 38 页

青空文庫

そうだ。好いことに思い附いた。」こう思って、かれは文庫の底からその暦の原稿を出して、更に博士の手紙を読みかえした。「七曜の数の出し方は確かに貴下の新研究と存候――。」こう書いてあった。今まで持っていた才能を何故今までつかわずに置いたかと勇吉は思った。限りない勇気が全身に漲って来た。神! 神が救けて呉れた! こんな風にも思って雀躍した。

Socialist としての圧迫も、東京に行けば何うにでもなると勇吉は思った。「東京は広い。身を躱して了えばわかりゃしない。巡査だって、刑事だって、そうそうはさがして歩かれやしまい。それに、東京には代用小学校がいくらでもある。教員の口だってさがせばわけはない。そうだ。そうだ。こんなところに齷齪して、雪の中に餓えて死んで了うことはない。それに限る!」勇吉は妻にすぐ言って聞かせようとは思ったけれど、まアあとで、すっかり決ってからでも好いと思いかえして、その愉快な計画を自分一人の腹の中に納めて置いた。勇吉はボールの厚板を押入の中から捜して、不完全な原稿の訂正に其日を費した。丸く切ったボール紙をぐるぐる廻して、別の紙の数字と合せるように勇吉は骨折ってこしらえた。