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トコヨゴヨミ

トコヨゴヨミ

田山 花袋

「早稲田文学」1914(大正3)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,449 字 · 38 页

青空文庫

」などと言って、丸いものを自分で廻して見たりした。

「博士の証明までついているんですな、これなら確かなもんだ。」などと言った。「忙しいけれども、兎に角二十日までにこしらえて上げましょう。千枚ですな……。」こう言ってちょっと途切れて、「それで紙の色は何が好いでしょう。」

勇吉は見本に出した小さな帳面をひっくりかえして見た。色の種類も少なく好い色もなかった。ふとかれの崇拝している作家の短篇集の表紙に似た色が其処にあったのを見て、「これにしましょう、これにしましょう。」と早口に言った。

「知っている絵かきがありますから、何か少し周囲に意匠をさせましょうか。いくらもかかりゃしません。余り周囲に何もなくってはさびしいですからな、書斉の柱なんかにかけて粧飾にして置くもんだから……。」深切な主人はこんなことを言って呉れた。原稿を持って行ってから俄かに主人の態度の変って行ったのも勇吉には成功の第一のように見えた。

博士の邸を本郷の高台に訪ねて行った時には、怪しい姿を玄関にいる大きな犬に噛みつくように吠えられて、かれは狼狽した。幸いに博士は在宅で、立派な庭に面した大きな室で逢って呉れた。