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トムきちとほうせき
トム吉と宝石
小川 未明
「日の出 1巻2号」1932(昭和7)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,254 字 · 9 页
トム吉は、宝石商の店にいる間に、これと同じものを一度見たことがあります。そして、それが驚くほど高価に取り引きされたのを記憶していました。いま、この珍貴な曲玉が、砂漠の中で見つかったというのは、昔、隊商の群れが、ここを往来したからです。
「これが、おれのものだったら、どんなに大金持ちになれるだろう……。」と、トム吉は、残念がりました。
彼は、若者が、この石の値打ちを知らないのを幸いに、この砂漠の中を旅する間に、どうかして、自分のものとする工夫はないかと思ったので、わざと平気な顔つきをして、
「ボタンにしては、あまりお粗末なものですね。どうせ、土人の子供が頸にかけたものかもしれません。」
こういって、若者の手に返しました。快活な若者は、荷物のひもをほぐして糸を造り、曲玉に通して、道化半分に、自分の頸にかけて歩きました。そして、いつかその石のことなど忘れて、なにかほかの話に興がって、笑っていました。
ひとり、トム吉は、若者の頸にかかった曲玉が歩くたびに揺れるのを見たり、ダイヤモンドが長い間砂にうもれて、いくぶん曇っているけれど、みがけば、どんなにでも光るのだと思うと、そのほうに気をとられて、ぼんやりと、あいづちを打つだけで、いままでのように、話に実がはいりませんでした。