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トムきちとほうせき

トム吉と宝石

小川 未明

「日の出 1巻2号」1932(昭和7)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,254 字 · 9 页

青空文庫

そして、トム吉が、はっと思ったしゅんかんに、糸は指からはなれて、曲玉は、波の中に落ちて呑み込まれてしまいました。

若者は、そんなことには気にもとめずに、口笛を鳴らして、このかぎりない美しい景色に見とれていましたが、トム吉は、失望と悔恨とくやしさとで、顔の色は、すっかり青ざめていました。

翌日、ここまで道づれになってきた二人も、いよいよ別れなければなりませんでした。

若者は、トム吉に向かって、

「もし、私が、成功をして大金持ちになったら、きっとあなたの町へたずねてゆきます。そして、あなたを、お助けいたします。どうか、お達者でいてください。」

といって、堅く、その手を握りました。そして、右と左に、別れてゆきました。

トム吉は、立ち止まって、だんだんに遠ざかってゆく若者のうしろ姿を見送っていましたが、まったくその姿が見えなくなると、そこに身を投げ出して、すすり泣きをはじめました。

「なんて、おれは、あのとき、あさましい考えを起こしたのだろう、もし、正直だったら、そして、自分が骨をおって、あの宝石を高く売ってやったら、あの男は、思いがけないもうけに喜んで、半分はお金を分けてくれたにちがいない。