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ドーヴィルものがたり

ドーヴィル物語

岡本 かの子

「経済往来」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,723 字 · 44 页

青空文庫

あまり深入りするとまあ身の破滅というたちの女でしょうな。

小田島は何のことやら判らないで云った。

――御忠告有難う。兎も角、イベットに会って来ましょう。

小田島のイベットに対する怒りはもう消えて居た。彼はしみじみとした気持ちでイベットに逢うため崖に付いた一筋の道を寺の方へ降りて行った。

七

寺の役僧に礼を云ってイベットは小さい手帳を乗馬服の内隠しに仕舞った。それから役僧の姿が祭壇の横の扉に隠れたのを見届け小田島に近寄って来た。

――よくお出掛けになってね。私も急にあなたにお目にかかり度い事情が出来たの。けど先刻ホテルに帰って聞いた時お部屋は閉ってあなたはまだ寝てらしった御様子よ。

薄暗い祭壇の長い蝋燭が百合の花の半面や聖母像の胸を照らして居てあとははっきり何も見えない。胴をちぎれる程締めたイベットの細身の乗馬服姿は修繕中の足場で妨げられたステンドグラスから僅な光で見出される。

――君は発つんですってね。

――まあ、何処から聞いて来て?……そうなの、急に、今朝がたそれが極ったような訳なの。

――何うしてそんなに急に極まったの。誰かが極めたの。君自身が?