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ドーヴィルものがたり

ドーヴィル物語

岡本 かの子

「経済往来」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,723 字 · 44 页

青空文庫

――有難う。でも何もかももう晩いのよ。私はもうフランスには居られ無いの。国事女探としてフランスの黒表に載って仕舞ったのよ。私送還されるのよ、西班牙へ。そして国元の西班牙へ返されたところで私に探偵を命令した反プリモ党は何時天下を覆えされるか判ら無いのよ。どっちみち、塀の前の楡の木の下で私が銃殺の刑に会うことは知れ切ったことなのよ。

――イベット、それは本当か?

――ええ、本当ですとも。

イベットは一寸あたりを見廻した。人は居なかった。が、イベットは前屈みになり、小声をぐっと小田島へ寄せた。

――スペインの前の執権、プリモ・ド・リヴェラは、正義振って遊楽地の賭博を禁止したのよ。で、政府に収入がなくなったばかりで無く、遊楽地という遊楽地は火の消えた様に寂れる仕末…………ここから海岸伝いで国境を越えたサン・セバスチアンが宜い例ですよ。何年かあの港は賑な遊び場だったのに、禁止後忽ちスペインのなかでも極平凡な工業港に変っちまいました。それで今度の政府は大々的に賭博の復興をもくろんだの。私の秘密な任務は、その復興策の参考の為に、フランス遊楽地の繁栄策を探ることだったの。