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ドーヴィルものがたり
ドーヴィル物語
岡本 かの子
「経済往来」1933(昭和8)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,723 字 · 44 页
あたし、お部屋を間違えたのよ。
薔薇色に黄の光沢が滑る部屋着の女が入って来た扉口を素早く締め彼に近づき乍ら早口に云う。
――あたし、東洋の方、大変、好き。この儘ここに居さしてね。
小田島は急いでベッドから半身起し、手を振って云った。
――駄目ですよ。僕は真面目な旅行者ですよ。
女は、案外思い切りよくまた扉口へ戻って、云った。
――あんた、もし相手が欲しかったら、四百九十三号室に居るわたしを呼んでね。あたし本当はあなた方の相手するような廉い女じゃ無いんだけど、すっかりこれでしょう。
女は何の飾も無くなった素の手首を見せて
――だからあんたから阿片でも貰って、やけに呑んで見ようと思って。
小田島は苦笑し乍ら云った。
――生憎と僕は支那人じゃ無いのです。
だが、女はまだ疑って居るようだ。
――この土地にはね、死ぬ処を、アッシュや阿片で止めた女が沢山居るのよ。
三
太陽、大河口。かもめ――ドーヴィルから適当な距離のオンフルール海岸は、ドーヴィル賭博人の敗北の深傷や遊楽者達の激しい日夜の享楽から受ける炎症を癒しに行く静涼な土地だ。
レストラン、サン・シメオンの野天のテーブルで小海老を小田島に剥がさせ乍ら、イベットは長い睫を昼の光線に煙らせて、セーヌの河口を眺めて居る。