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ノンシャランどうちゅうき
ノンシャラン道中記
久生 十蘭
03 謝肉祭の支那服 ――地中海避寒地の巻――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,137 字 · 26 页
闇の中から突然姿を現わす怪物のような野生仙人掌に胆を冷し、人間よりも丈の高い、巨大な竜舌蘭の葉の棘に額を打ちつけながら、なおもそろそろと道なきに道を求めて漂流すること一刻あまり、やがて、密生した西洋蘆の奥の闇の中におぼろに白い姿をさらし、死せるがごとくに固く鎧戸を閉ざした城のような一棟の建物の前にゆきあたった。公爵は甲高い声でカラカラ笑いながら、
「や、とうとうつかまえた、こんなところに隠れていたのか、仕様のない悪戯っ子だぞ! お前は!」と愛撫するように扉のあたりを軽打した。「去年は、あっちのユウカリの樹のそばへつないでおいたのですがね、今年はこんなところへ逃げ出して来ている……ほら、ご覧なさい。ちゃんと鎖で結えつけておくんですが、いつも鎖を引き切ってしまう」
なるほど、小庇の下には、緑青の噴いた古ぼけた鐘が吊されてあって、その中心から細い鎖が、枯草の中をはって、門の方へどこまでも続いている様子、時々夜の闇をなめるように旋回して来るアンチーブの灯台の、蒼白い光芒の中に浮び出すその荘館というのは、※門は崩れ鉄扉は錆び、前面の壁は頂銃眼のあるあたりまで、猫蔦の茂るにまかせた見るからにすさまじいさながらの廃墟、時刻はあたかも丑満刻、万籟寂として滅し、聴えるものはホイホイというなにやら怪しい物音ばかり。