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バルザックのねまきすがた
バルザックの寝巻姿
吉行 エイスケ
小野クララの筆名で「文芸春秋」昭和4年10月号に掲載。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,606 字 · 27 页
妾はロダンさんの芸術を微かながら、妾の心の奥底に感じることが出来ると同時に、この老いた彫刻家に妾は自分の心を与えることが出来たのです。ロダンさんは希望に輝いて妾の肉体に表徴される内部的な動きを描き出したのです。妾は眼の前に空虚な袖の垂れている寝巻に包まれた巨大な人間の像を見たのです。彫刻の寝巻からあらわれた裸な胸部の女性らしい形態、そして頭部に於ける肉の強調、醜いが人を魅する悪魔的な眼付、何物かを触感しようとする肉感的な唇――男性の夜半に眼覚めて攪乱されて眠れず突然現れた思想を追求しようとするいたましい人間の姿、この激情的な、感激的な、空想的な、偉大な彫刻の中に、ロダンさんが枯れて自己となっていることを、妾は知ったのです。妾は、憂鬱なロダンさんを知る事が出来たのです。一つの偉大な芸術家が無智な妾の魂を抜去った強大な力を、妾は感ずることが出来たのです。
これが寝巻姿のバルザックの像でした。――
ロダンさんは中年時代、シャトウ・チェリイから出て来た女弟子のカミイユ・クロオデル嬢との恋愛の破綻によって、思索上にもロダンさんの生理学にも余程の変化があったのだそうです。