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バルザックのねまきすがた
バルザックの寝巻姿
吉行 エイスケ
小野クララの筆名で「文芸春秋」昭和4年10月号に掲載。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,606 字 · 27 页
今や妾にとって、バルザックの像は、妾の生命だったのです。バルザック像に対する妾の信仰が唯一の佐野に対する妾の追悼でした。そして遂に妾は、妾の記憶の裡から佐野を葬ってしまったのです。
幾年かの後、花子の恐怖の首は完成されました。ロダンさんは妾の魂を粘土の塊の中に、移すことに成功なすったのです。バルザック像の影を作ることが、自分の精神的な永遠を表明し、それをオテル・ド・※(濁点付き片仮名ヰ、1-7-83)ロンに残すことが出来たのです。「花子の首」は絹の小蒲団に載せて、バルザックの寝巻姿の傍におかれました。そして「花子の首」が完成されると、ロダンさんの製作欲と老年の力は、見る見る衰えて行きました。その後再び一座を組織した妾は、欧洲を町から町にさすらって歩いたのです。――ドーバーの港が見え出すとロダンさんはしきりにオテル・ド・※(濁点付き片仮名ヰ、1-7-83)ロンの彫刻室を懐かしがって、再び危険な巴里へ帰ると云って、ロオズ夫人を困惑させていらっしゃいました。妾達がロンドンに着いて間もなく、ジョッフル将軍の智略によって、マルヌの一戦にフランス軍が大勝利を得たことをきいて、巴里に残した二つの魂に対する妾の不安はなくなりました。