轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

パンドラのはこ

パンドラの匣

太宰 治

太宰治『パンドラの匣』。同一底本的分册已合并为一书。收入:パンドラの匣、正義と微笑。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,644 字 · 386 页

青空文庫

悲痛どころではあるまい。それはもう既に、ウソの表情だ。船は、するする岸壁から離れたのだ。そして船の出帆には、必ず何かしらの幽かな希望がある筈だ。僕はもう、しょげてはいない。胸の病気も気にしていない。君からあんな、同情の言葉に満ちた手紙をもらって、僕は実際まごついた。僕はいまは何も思わず、ただこの船に身をゆだねて行くつもりだ。僕はあの日、すぐにお母さんに打明けた。自分でも不思議なくらい平静な態度で打明けた。

「僕、ゆうべ喀血しました。その前の晩も、喀血しました。」

何の理由も無かった。急に命が惜しくなったというわけでも無い。ただ、きのう迄の無理な気取りが消えただけだ。

お父さんは僕のためにこの「健康道場」を選んでくれた。ご承知のように、僕のお父さんは数学の教授だ。数字の計算は上手かも知れないが、お金のお勘定なんてのは一度もした事がないらしい。いつも貧乏なのだから、僕もぜいたくな療養生活など望んではいけない。この簡素な「健康道場」は、その点だけでも、まったく僕に似合っている。僕には、なんの不平も無い。僕は、六箇月で全快するそうだ。あれから一度も喀血しない。