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ヒノエウマのはなし

ヒノエウマの話

坂口 安吾

「新潟日報 第四〇六〇号」1954(昭和29)年1月3日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,834 字 · 4 页

青空文庫

私が子供のころ、親類のジイサン、バアサンなどが頭をなでてくれたりしながら、お前男に生れてよかったな、女なら悲しい思いをしなければならないなどとよく言われたものである。

戦後はグンと民主化や文明開化が行きとどいて、古来の因習が少くなり、ヒノエウマの迷信なぞはもう問題にならないように一口に言われがちだが、果してそうか、甚だしく疑問である。

戦後ヒノエウマが人々の話題とならないのは、ヒノエウマ生れの人が新春には四十九歳となり、とっくに婚期もすぎて、落ちつくところに落ちついているせいだろう。泣いた人も涙がかわき、死ぬ人はとっくに死んでしまったのだ。干支は六十年周期だから、十二支がもう一廻りすると次のヒノエウマの人々がまた生れてくるが、これらの女の人が多かれ少かれヒノエウマの迷信の受難者たること古来の先輩とあまり変りがなかろうというのが私の考えだ。

ヒノエウマの迷信の起りは知らないが、だいたい干支というものは、日本に於ては最も古い文化の一つである。ともかく、これ自身も昔は文化であったには相違ない。

古事記や書紀の昔から、干支というものが年代をはかる標準になっていた。