轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ヒルミふじんのれいぞうかばん
ヒルミ夫人の冷蔵鞄
海野 十三
「科学ペン」三省堂、1937(昭和12)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,412 字 · 29 页
尻尾を出さないということは、夫とかしずく男が、依然として真の万吉郎であるという証明にもなったが、同時にまたヒルミ夫人は自らの神経を刺戟して、その男が巧みにも真の万吉郎そっくりに化け終せているのではないかと、もう一歩鋭い観察に全身の精魂を使いはたさなければ気がすまなかった。げに無間地獄とは、このような夫人の心境のことをさして云うのであるかもしれない。
煩悶は日毎夜毎につづいていった。疑惑はまた疑惑を生み混乱の波紋は日を追うて大きく拡がっていった。
そしてとうとう最後には、もう紙一重でヒルミ夫人の脳が狂うか否かというところまで押しつめられた。
夫人は、灯もない夕暮の自室に、木乃伊のように痩せ細った躰を石油箱の上に腰うちかけて、いつまでもジッと考えこんでいた。もうここで敗北して発狂するか、それとも思いがけないアイデアを得て辛くも常人地帯に踏みとどまるか。
「あ、――」
夫人は暗闇のなかに、一声うめいた。
天来のアイデアが、キラリと夫人の脳裏に閃いたのであった。
「あ、救われるかもしれない」
リトマス試験紙が、青から赤に変るように、夫人の蒼白い頬に、俄かに赤い血がかッとのぼってきた。