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フシギなおんな

フシギな女

坂口 安吾

「新潮 第四八巻第五号」1951(昭和26)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,406 字 · 35 页

青空文庫

全員を殺してなら、あるいは冷静に証拠を消してもいられよう。二階にもう一人いるのである。犯罪というものは、それを行う前よりも、行って後の恐怖や、逃げたい気持が激しいのが普通であろう。

彼女の場合も、あるいは再び二階で人を殺す勇気がなかったのかも知れない。その気持は理解できるが、しかし、殺した四人を目の前に、ユックリ足跡を消したり、盗んだり、さらにそれ以上に長時間を費して、からだの血を洗い衣服も多少は洗ったりしたであろう。この太い泥縄のような神経は恐ろしいね。たぶん夜が明け放れて人に怪しまれなくなるまで、殺した家に閉じこもっていたのだろう。

スシ屋へ現れて三四十分かかってスシを食い水を四合のみ、このへんは、さもあらん。いかに大胆不敵でも、ノドがかわく筈だよ。四人を殺すのは大変な仕事だからな。

それにしても、彼女が最も心を用いているのは時間なのだ。信用組合の時間である。ほかに心配はないらしい。衣服や手足毛髪などのどこかしらに血がついていないか、又は、すでに現場が発見されて大騒ぎになり諸方に手がまわっていないか、それが何より気がかりになる性質のものだが、彼女の神経は海底電線ぐらいの太さがあるなア。