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ボニンとうものがたり
ボニン島物語
久生 十蘭
「文藝春秋」1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,772 字 · 41 页
頬骨がとびだし、口もとの尖ったのが赤裸に菰を纒っているのは、山田の案山子といった体裁で、これが生きた人間のすがただとは、どうしても思えなかった。
九月の末から、非人乞食が牛馬を打殺して売るようになった。捨牛捨馬はもとより、牛馬を屠殺することは、南部藩では制札第一の法度になっていたが、牛馬を養いかね、飢え疲れたのを野山に捨てることが流行った。非人や乞食はそれを引取って皮を剥ぎ、オットセイでも売るように目方にかけ、鹿の肉だといって売る。
牛馬の種が尽きると、犬猫に及び、はては鼠や鼬まで食うようになった。非人どもは、犬一匹五百文、鼠百文の割で売り、買ったほうは、その場で打殺して、塩もつけずに貪り食うのだった。
盛岡から北、三戸郡や北郡では、九月ごろから人肉を食った。はじめのうちは、行倒れの肉を切取るくらいのことだったが、飢えて死んだ人間の肉は、枯渇して味が悪いというので、生きているのを殺して食うようになった。老人の肉は評判が悪く、女の子供の肉は柔らかで味がいいなどと無慚な評定をし、野山どころか、家の中にまで入りこんで女子供を攫い、山曲や川隈の人目につかぬところに竈をこしらえ、十人くらいも車座になって、恣に食らい競うという風であった。