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ボニンとうものがたり
ボニン島物語
久生 十蘭
「文藝春秋」1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,772 字 · 41 页
いかにも、もの佗びた風景であった。
天保四年から七年までつづいた大飢饉のあとがまだ片付かず、いたるところに白枯れた髑髏がころがっている。この辺の領民は、ほとんど死に絶えてしまったものとみえ、宿を出ると、夕方、つぎの宿に着くまで人間のすがたを見ることができない。砂丘のむこうに三十戸ばかりの村が見える。小休みをしようと思って行ってみると、人の住んでいる家は一軒もない。村端れの茅葺の屋根の下をのぞくと、壁は崩れ障子は破れ、おどろに荒れた出居の土間に、親子か夫婦か、手足の骨まで揃った骸骨が、より添うようなかたちで抱きあっているのは、すさまじいかぎりのながめであった。
十七日の昼すぎ、野辺地という町に着いた。ここで奥州街道に別れ、津軽の海に突きだした半島の岸について行く。大湊はここからちょうど二日の行程になる。
野辺地の町を出はずれると、左手に寒々と光る陸奥浦の海が見えてきた。二人のすこし前を清兵衛と庄吉が老人くさく背中を丸め、海風に吹きまくられながら、踊るような足どりで歩いている。
清兵衛は大湊の船持ちで四十五歳、庄吉は田名部の名子百姓で五十歳である。どちらも口の重い、地味な風体で、言葉にこそは出さないが、踊るような足どりにも、ほどなく生れ故郷の土を踏む、やるせないほどのよろこびが感じられる。