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ボニンとうものがたり
ボニン島物語
久生 十蘭
「文藝春秋」1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,772 字 · 41 页
と、こんな話をした。
いま、お二人さまが坐っていられるのは、天明大飢饉のときの千人塚で、庄吉の父母の骨も、そこに埋っているはずである。また、野辺地の町でごらんになった二組の骸骨は、庄吉が夢に見るほど逢いたがっていた弟夫婦の成れの果てのすがただったので、たまさか故郷へ帰るなり、天明と天保の飢饉のあとを見て無常を感じ、急にとりとめなくなったと思う。郷里の土を踏むことが、うれしからぬわけはなく、乱心の言わせる言葉なのだから、お気にさえられぬようにと、丁寧な挨拶をしていると、庄吉は流れ雲を眼で追いながら、
「嘘つけ、清兵衛」と合ノ手を入れた。
深志は清兵衛に笑顔をむけながら、
「わしには、意地を張っているとしか見えぬが、乱心なら乱心でもいい。それはそれとして、湊屋清兵衛といえば、江戸にまで聞えている名だが、大旦那のお前が、名子百姓の庄吉を庄吉さんと呼び、名子百姓の庄吉が、大旦那のお前を清兵衛と呼び捨てにするのは、納得がいかぬ」
そういうと、清兵衛は吐胸をつかれたように、はッと顔を伏せた。
「なにか訳があるのかい」
清兵衛は小さな声で、「これは島の慣例なのでございます」